職場では横一線から始まる

誰もが留学を経験するわけではありません。国内で普通に教育を受け、そのまま就職する人もたくさんいます。留学していたからといって、就職後にそれらの人と条件が変わるわけではありません。

職場では経験ではなく、実務の遂行能力がものをいいます。つまり、「仕事ができるかどうか」ということです。ただ留学経験があり、外国語に堪能だとしても、仕事ができないようであれば意味がないのです。どのような状態であれば「仕事ができる」とみなされるのかは、その職場で違うものです。どのようなことを要件として課せれられているのかによって違うでしょう。売り上げを伸ばすことが求められているのか、それとも業務を効率化することが求められているのか、要件によって違うのです。

組織には人の役割というものがあって、それぞれ求められていることが違います。自分に求められていることはなんなのかということを考えることは大切なことで、「自分の仕事は何か」ということを定義することと等しいのです。その「役割」から逸脱してしまうような行為は忌むべきものとされていて、組織の乱れを招きます。「留学していたから自分は他の人と違う」と考えるのは勝手ですが、そのような考えは働き始めると通用しなくなるものです。「自分だけは」という考えは、社会では通用しません。誰も理解もしてくれません。留学していなくても仕事ができる人は沢山いるものですし、留学とビジネスセンスはまったく別のものです。

仕事上で大切なことは「センス」です。自分の役割では何が要件なのか、どのようなことをミッションとして持っているのか、ただ言われたことだけをやっていればいいというスタンスでは、学生と同じです。課題が目の前にあり、それをこなせば褒美がもらえるということでは、ショーのイルカと同じです。何が求められているのか、どのような職責を持っているのか、その企業に、組織に、どのように貢献して、どのように自己を成長させるのかということは、実は「自分次第」であり、誰も決めてはくれないのです。社会とは残酷なもので、誰も自分の進むべき道などは教えてくれません。誰も自分の間違いを正してはくれません。人に注意したり叱ったりすることはなかなか難しい世の中になっているのです。

自分のことは自分で気がつくしかないのです。その職場で、その仕事で、留学の経験が活きるかどうかも、実は自分次第なのです。「これはやりたくない、あれはやりたくない」という意識は、実は自分の成長の妨げになっているものです。どのようなことも経験であり、ビジネスである以上、自社の何かを「買う」人がいるのです。人に「売る」というセンスがビジネスにおいて重要なものになるのですが、そのような「営業センス」は自然には身につくものではありません。自分自身で磨いて、はじめて体得できるものです。どのような仕事でも「営業センス」は問われるものです。自分は営業ではないから、という考えは、それ自体が自身の経験の妨げになっているのです。

どのような教育を受けたとしても、どのような経験を持っていたとしても、すべては「仕事」で測られるものです。それまで「良い」とされてきたことも、仕事上では役に立たないかもしれません。